流山児★事務所'98スペシャル

ピカレスク黙阿弥


[イラスト]榎木孝明

[あらすじと見どころ]

 舞台となるのは、現代。とある劇団の稽古場。すべてはそこで行われる稽古として進行するが、芝居なのか稽古(現実)なのか、分かちがたく重なり合っているメタ・シアター形式で物語は進行する。

 ある劇団は座長・次郎(男1)を頭に、劇団の機運をかけて現代版『籠釣瓶花街酔醒』(かごつるべさとのえいざめ)に取り組んでいる。

『籠釣瓶花街酔醒』は明治21年(1886年)に千歳座(のちの明治座)で初演された世話物狂言。享保年間に江戸吉原で野州の百姓・佐野次郎左衛門が吉原の花魁・八ッ橋の不実を恨んで切り殺した上に、多数を殺傷した「花の吉原百人斬り」を題材にした作品である。

 佐野の絹商人次郎左衛門(男1が二役を演じる)は吉原見物の折り、当時全盛の花魁・八ッ橋の道中姿を見て、身も心も奪われるところから芝居は始まる。その後、次郎左衛門は金に飽かして通いづめ、ついには身請けをしようとするが、栄之丞という情夫がいる八ッ橋は、権八の策略でそそのかされ、衆人環視の中で手厳しい愛想づかしをする。覚悟を決めた次郎左衛門は名刀『籠釣瓶』を持参し、再び吉原に現れる……という筋立て。

 稽古が始まり、踊り、殺陣の稽古などは進行しているものの、肝心の八ッ橋が決まらない。いらつく稽古場。ヒロインの八ッ橋は一目で次郎左衛門を狂わす女でなければならないというのが座長の思い入れ。そこへ現れたのが、元ストリッパーあがりの女(女1)。次郎の抜擢によりヒロインの座につくが、ベテラン女優沖津(女2)をはじめ、周りの劇団員はおもしろくない様子。芝居の枠を越えて八ッ橋にのめり込んでいく次郎。一緒に暮らしたいとまで願うが、奔放な八ッ橋には伝わらない。

『籠釣瓶花街酔醒』とあまりにも似通っている稽古場の状況。本番に近づき熱が入っていくにつれ、次第にそれが芝居なのか、それとも現実なのか区別がつかなくっていく……。そして、ついには……。

[解 説]

 黒テントの芸術監督であり、『カミさんの悪口』『はいすく〜る落書』などテレビドラマのシナリオライターとしても活躍中の山元清多が『籠釣瓶花街酔醒』を題材に、カルロス・サウラ監督、アントニオ・ガデス主演の映画『カルメン』にインスパイアされて描きあげたのがこの『ピカレスク黙阿弥』。

『籠釣瓶花街酔醒』の台本と現実の台詞がからみ合い、未だに見たことのない濃密な劇的空間が現出する芝居が『ピカレスク黙阿弥』。


【登場人物】

・佐野次郎……(男1)
・権八…………(男2)
・繁山栄之丞…(男3)
・丈助…………(男4)
・丹八衛………(男5)
・治六…………(男6)
・長兵衛………(男7)
・万八…………(男8)
・与助…………(男9)

・八ッ橋………(女1)
・沖津…………(女2)
・おさき………(女3)
・九重…………(女4-1)
・七越…………(女4-2)
・初菊…………(女4-3)
・とら…………(女4-4)



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