流山児★事務所　『花札伝綺』

「私が捨てた言葉はきっと誰かが生かして使うのだ」(寺山修司)

　詩・短歌・俳句・競馬・映画・演劇といったジャンルを軽やかに、勇気をもって超え、文字通り“時代を駆け抜けた”クロスオーバーの旗手、それが寺山修司という巨人である。寺山修司が彼岸へと旅立って約30年の時が流れた。「私の職業は寺山修司です」と応えたエピソードはあまりにも有名だが、彼ほどあらゆるメディアを通して”時代を挑発”し続けた稀代のアジテーターはいないだろう。その実験精神と冒険心は、今もなお、強烈なアジテーションとして我々の前に存在し続けている。

私は1970年、劇団活動をはじめて、すぐ寺山修司に出会い1983年、寺山の遺作となる『新・邪宗門』を演出した。流山児★事務所旗揚げ公演は寺山修司の『さらば、映画よ』である。その後、現在に至るまで100を超える寺山作品を上演しつづけている。

彼の演劇の初期テーゼは《見世物の復権》であった。「“見られる見世物”の悲しみを“見せる見世物”のバイタリティに移し替えてみたい」という試みから寺山演劇ははじまる。そして《ドキュラマ》と呼ばれるドキュメントとドラマの結合の試み。時代や事件を演劇と結びセンセーショナルに風俗すれすれで「昭和」という時代を撃った。そして『書を捨てよ、町へ出よう』などを経て一気に「市街劇」へと向かう。時あたかも全国の学園闘争が、学園から街頭へと闘いを拡大していった時代とパラレルに重なる。『人力飛行機ソロモン』、そして「事件」となった市街劇『ノック』である。

　寺山修司は永久煽動者であり演劇革命家であった。「政治による人間の解放は部分的な解放に過ぎない」と言い放ち若者に「書を捨てよ、町に出よう」と煽動し「家出のすすめ」を説いた。ヒトとヒトの出会いを組織化し、演劇の持つ本来の自由さを見通し、時代そのものを変革しようとしたのである。

寺山の魅力は、寺山が生涯追い求めてやまなかった「自由への渇望」にあり、本来「演劇の持つ自由さ」の全てがそのテキストに凝縮されている。時を超え永遠に寺山修司は生きてゆくだろう。彼は生と死の概念をも自由に飛び越えたのである。